なぜこの「あの同族企業はなぜすごい」という本を読んでみる事にしたのか
今、「同族経営」や「ファミリービジネス」について集中的に情報を集めています。
一応は私も 同族企業の経営者なのでこの分野には元々興味がありました。考えてみればこのジャンル(同族経営)だけに特化して勉強した事はありません。先日このブログで「トヨタ自動車に同族経営のメリットを見た」という記事を書いたところ、思いのほかアクセス数が良かったので「もうちょっと同族経営の企業について調べてみたい」と思うようになりました。そんな訳でこのジャンルの本をいろいろと探しているのですが「同族企業」「同族経営」「ファミリー経営」の本となると「事業承継の為の法律手続きの本」ばかりです。そっちはそっちで勉強した方が良いのでしょうが、もうちょっと「同族経営の特徴や傾向」について書いてある本はないかな?と探してみました。しかしあまり選べる状況にありません。そんな中でアマゾンでこの本が目に留まったので買ってみました。
前半は「列伝」風。読み応えはあるが、一般的に役に立つ内容とは言えない。
前半がいろいろな同族企業経営者の「列伝」です。多数の同族経営の経営者のインタビューが書かれています。中には壮絶な生い立ちや体験をした人達もいて、それはそれで面白くは読めました。が、それらは「あくまでインパクトのある事例」というだけで、一般的な「同族企業」「同族経営」「ファミリービジネス」に従事する者にとって参考になる事例とは言えません(苦難を乗り越えてきた先人達の事は尊敬はしますが)。
また、従業員や親族との確執や争い等の事例も多数書かれています。しかしその争いに勝った経営者側だけが語っているだけで、相手側の見解が書かれている訳ではありません。従業員や親族との確執は家業に従事した経営者なら誰でも体験する事です。私にも覚えがあるので「そうそう。そいういう事あるある。」と思いながら読みましたが、今後の学習につながるとは言えない内容ばかりでした。
既に家業に従事て事業も継承している私にとってはそんな感想ですが、ただし「これから家業に従事する人」達が読む分にはそれなりの覚悟をしておく意味で有益な本だと思います。
後半はROA中心の経営論
後半は同族経営の経営分析のトピック集です。やっと「同族企業」「同族経営」「ファミリービジネス」とは何かという事が書かれている箇所が出てきました。特にROAの視点で書かれた箇所が多く、この点は評価できます。
ROAとは
ROA(総資産利益率)= 当期純利益 ÷ 総資産(資産合計)
で持っている資産でどれだけの利益を出したかという指標です。
中小企業を経営しているとお金が回っているうちはあまり自分の会社を客観的に見ないものです。その点でも客観的に見る指標を持っておいた方がいいと考えます。
私が感じた本書への疑問点
創業経営者が経営する企業の方がROAが高いのは当たり前。
本書の後半
企業は創業者がいる間はこの「ROA」が高い
と書いています。
当たり前の話です。それは創業経営者が世襲経営者よりも優れているという事ではなく、ビジネスモデルがまだ旬の状態だから当たり前の話です。
ビジネスモデルや会社の状態が旬ではなくなってきた状態を後継者は引き継ぐから苦労する訳です。
その点の分析が少々不満でした。
婿養子の経営する企業の方がROAが高いのも当たり前。
さらに本書では婿養子を賞賛しています。わざわざ「MUKOYOUSI]と英語表記して「世界が注目」と書き、「婿養子の企業はROAが高い」とも書いています。
まるで事業後継者には息子よりも娘婿に継がせた方が業績が上がるとでも言いたげに思えますが、これも当たり前の話で婿養子はその家に生まれた訳ではありません。継ぐ前の段階で「継ぐ価値があるか」を考える事ができる訳です。
当然ながらつぶれる寸前の会社を継ぐ婿養子は少ない訳で、婿養子が承継した企業の方が業績が良いのは当たり前の話です。
逃げる選択肢もなく使命感からジリ貧で時代遅れの会社に従事する実子とは違います。
この点も少し不満を感じました。
全体的なまとめと感想。
日本の「同族経営」の本に多いタイプです。
苦労話は沢山書かれているのですが、それらに対する対処法は一切書かれていません。
前述のように「これから家業に従事する人」や「将来実家を継ぐ予定の大学生」が読むには良いかもしれないとは思います。
それではファミリービジネスや同族経営に対してどんな事が書かれた本なら読みたいか?
事業を継承する者(した者)の苦労話は当たり前の事で、事業を継承した人のほぼ全員が従業員や先代との確執や衝突を体験しています。私にもありました。周囲の経営者でも体験しなかった人の話を聞いたことが無いくらいです。
私が求めている本は、それらの確執や衝突をどうコントロールしながら長期ビジョンで経営していくのかを書いてある本です。
そんな本があったら是非読みたいと思っています。